本田宗一郎さんのビル

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本田宗一郎さんには一度もお会いしたことはないのだが、つい『本田さん』と呼んでしまう。昔から本田さんのファンで何冊か本を読んだ。「俺の考え」というエッセイだったか、ソニーの井深大さんが書いた「わが友、本田宗一郎」だったか。青山一丁目のHONDAビルの前を通るたびに思い出すことがある。

本田さんが会長のときだったか、第一線を退いた後だったか、青山1丁目に本社ビルを建てることになった。そのとき本田さんは、「あんな都会のど真ん中に高層ビルなぞ建てていいものだろうか」と思ったそうだ。日本は地震大国だ。「もし地震が来てビルの窓ガラスが割れて落下して、下を歩いている人やクルマに当たったらどうするんだ?」と悩んだ。そこで会社に「頼むから、窓ガラスのむき出しのビルだけはやめてくれ。ベランダみたいなものでもつけて、窓ガラスが直接下に落ちないような設計にしてくれ」と会社に頼んだそうだ。本田宗一郎、最後の頼みだと思って、わがままを聞いてくれ、と。

青山1丁目のHONDAのビルを見上げると、企業のビルにしては珍しく、アパートのベランダのようになっている。あれは、本田宗一郎さんの意思だ。豪快な人、というイメージのうしろには、人様に迷惑をかけてはいけない、という心配りがあった。あのビルを見るたびに、本田宗一郎さんの心遣いを思い出す。

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