長友さんを偲んで【稀代】③ne & de

オリーブオイルが肌にいい、と聞くやいなや顔に塗る長友編集長
クリネタ26号 Photo by 木内和美

長友さんを偲んで。クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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ne&de
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「稀代」というクリネタのこのコーナーは、この店のためにあるようなものだと思った。それほど「ケッタイ」なお店だった。住所と地図を見て「ああ、あの辺ね」すぐわかるわと思って歩いて来た。青山3丁目からキラー通りを国立競技場方向へ。神宮前3丁目の交差点過ぎたすぐ左手。しかし通り過ぎてしまった。あれ?おかしいな。Uターンしてもう一度来た道を戻ろうとしたら、向こうからトコトコやってくる長友編集長が見えた。ああヨカッタ。「このへんですよね?」「うん、たしか、ここよ」とプランターが置かれた黒い手すりの階段をすこし上がった鉄の扉とガラス張りのお店がそこだった。

先に到着していた柴田副編集長が白い木のカウンターで涼しげなグラスを傾けている。「香るハイボールよ」白州ハイボールにミントの葉を浮かべて香るハイボール。「じゃあ、ボクも香るハイボールを」するとお店の女性が店の外へ。さっきの階段のプランターのミントを摘みにいったのだった。青山育ちのミント。

何も知らずに初めて来た人は、たぶんキョトンとするだろう。ボクがそうだったから。カウンターの上にはアリゾナ産ターコイズを使ったアクセサリーが飾られながら商品としてディスプレイされている。ネイティブアメリカンの友だちからお守りとしてターコイズの石をもらったオーナーが、その美しさに魅せられて、このようなアクセサリーをつくるようになったという。カウンターの中はいわゆるBARのようにずらりとお酒のボトルがならんでいるわけではなく、工芸用の工具や革のひもがずらっと並んでいるコーナーがある。細長い店内の奥はなにやら薄暗く怪しい椅子とテーブル。オーナーであり空間デザイナーの堀育代(ほりやすよ)さんがつくる空間。「時の美しさ」をテーマに落ち着きのある優しい空間にしたかったそうだ。ああ、それであの大きなドアが飾ってあったのか。100年以上前にパリで使われていたものだそうだ。そこにも「空間」と「時間」が演出されている。

「このお店は4つのパートでできているんです」と堀さん。「まずお店に入ると、ここがショップ、こっちが工房。で、カウンター席がBARで、奥がデザイン事務所なんです」決して広くはないスペースだけどうまく分類されていて無駄がない。なんだろう、この居心地のいいカンジ。ショップで閉店後スタッフだけで飲み始めてしまったようなあのカンジ。友達の事務所に打合せに行って、そのまま飲み始めてしまうようなあのカンジ。お酒を飲みながら手作りのアクセサリーを見ながら、堀さんの話を聞きながら、「これプレゼントにいいかも」と思いながら飲める店。「人に贈るものを何にしようか悩む時間を、ここで楽しんでいただければ」

堀さんがイタリアに行ったとき、ベネチアで『バーカロ』という食前酒だけを扱っているBARに出会ったそうだ。夕方4時くらいにオープンして食前酒を楽しんでお店は8時には閉めてしまう。それからふつうに食事に行く。そんな文化に出会ったそうだ。「こんなお店あったらいいな」そう思って始めたのがこのne&de(ネーアンディー)だ。ne&deとはnearest(一番近い人)&dearest(一番親しい人)つまり、最愛なる人という意味らしい。

カウンターに気になるメニューがあった。『TODAYSオイルアペタイザー ○燻くんプロシュート500円有機ブタのプロシュート冷燻オリーブオイルがけ(オレイン酸たっぷり)』この手書きのメニューを見た人が10人中8、9人は聞くであろうことを聞いてみた。「冷燻オリーブオイルって何ですか?」すると鮮やかなターコイズブルーのボトルを見せてくれて、「これ、燻製の香り付けがしてあるオリーブオイルなんです。これをピザにかけてもいいし、野菜にかけてもいいし、冷や奴にかけてもイケルんですよ」と。「ふむふむふむ」と全員うなずく。さながら美人教師の話を教室の最前列で聞くオジサンたちのようだ。先生はオリーブオイルのことをいろいろ教えてくれた。

例えばこれはフルムーンという名のオリーブオイル。満月の日に収穫したオリーブだけで抽出したスペイン産のオイル。満月の日は、含まれるオレイン酸が多いのだそうだ。オジサンたちはただただ「へー」とか「ほー」と言うしかなかった。「オリーブオイルというのは畑と瓶詰めする場所が近い方がいいんです」畑で実を摘んで、そこで搾って、そこでボトルに詰めるのが理想なんだそうだ。とにかく空気に触れさせないことが大切だと。そこで二つのボトルを見せてくれた。同じボトルのカタチだけどラベルがちがう。何が違うの?と聞くと「こっちが収穫後4時間でボトリングされたオリーブオイル」「ほほーっ」「そしてこっちが、収穫後すぐに搾って10分でボトリングされたもの」「えええーーっ10分?」そう言われたら、テイスティングしないわけにはいかないでしょう。うまいことできてます。

てなことを勉強していると、ほうれん草を練り込んだ生地で焼かれたピザができあがってきた。生ハムに燻製の香り付けしたオリーブオイルがかかっている。「さながらここはオイルBARですね」と山岡特派員。すると長友編集長が「なに?老いるBAR?」「オイルBARですよ」「老いるはイカンなぁ、老いるは」オイルには敏感な長友編集長であった。

2杯目は白州オンザロック(青山ミント入り)を飲みながら、数種類のオリーブオイルをテイスティング。お酒を飲みながらオイルを飲む。冷燻オリーブオイル、フルムーン、4時間詰め、10分詰め。銀色の小さな計量スプーンで味見。たしかに違う。それぞれ違う。柴田副編集長は「やっぱり燻製オイルがいいな。これいくら?」お買い上げありがとうございます。

このCAFÉ&BARのもうひとつの自慢がこの2年熟成コーヒー。コーヒーを入れてくれるのは並木亜妃さん。「コーヒーを入れるとき滴るしずくが赤くなるんです」「はぁ?赤くなる?」カウンターの男たちが一斉に身を乗り出して覗き込む。ふつうにただコーヒーのしずくがおちているだけじゃん、と思ったそのとき「あ、見えた!」確かに黒い液体の中に赤い、イクラのような粒が一瞬見えた。取材カメラに写ったかどうかは心配だが、たしかに赤い粒が落ちるのが見えた。「手品じゃないですよ。ちゃんと入れ方をレクチャーされたんですから」

「お豆腐&オリーブオイルも試してみます?」と堀さんが用意してくれた木綿豆腐に「トリュフ塩」をふって「冷燻オリーブオイル」をかけて。これはイケル。茶の湯をいただくような器でコーヒーをいただきながら、これまた結構なお手前で。「コーヒーと冷や奴」ケッタイな取り合わせ。なんだか不思議に愛着の湧く語感。「コーヒーと冷や奴」いっそ店の名前にしたらどうだろう、という長友さんの提案でひとしきり盛り上がったが、白州ハイボールと冷や奴のほうがおいしいとボクは思う。

初めてひとりでふらっと入るには敷居と階段が高いのかもしれないが、「クリネタで見たんですけど」といえば、ニッコリ迎えてくれるお店がまた一軒できました。

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渋谷区神宮前2-6-6 秀和外苑レジデンス1F(ne&de 青山ショップ)

■ne&de 青山ショップ
 OPEN:火曜日~土曜日
※(月曜日・日曜日・祝日はお休みになります)
TIME:11:30~20:00
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No.26 (2014年06月27日発売)
クリネタ
http://www.crineta.jp

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