最後の辞令

最後の辞令
独立する、という意志を最初に伝えたのは、妻にだった。そして二人の親分、仲畑貴志さんと大島征夫さんに伝えた。それから電通でお世話になった人たち、出会った順番に思い出しながら、一人ずつにメールを送った。「中村禎が辞めるらしいね」ということを、人伝てで聞くのはいい気分じゃないだろうな、という人へ直接伝えたかった。

そしてその、心打たれる返信を300通以上いただいて、ふと、「社長に挨拶なしでいいのか?」という思いがよぎった。社長や役員の人たちにも、何人かお世話になったかたがいらっしゃる。メールでは失礼だろうか。いや、心のこもっていない印刷された手紙の方が失礼だろう。メールだろうと手紙だろうと、大事なのは中身だ。そう思って、一人一人に送った。

石井直社長が営業部長だった頃、ご一緒させていただいたことがある。憶えていらっしゃるかはわからなかったが、その頃の話を添えて書いた。『メールなんて失礼な! 君はクビだ!』とはならないだろう。だって早期退職なんだから。メールを送った。

石井社長から返信が来た。うれしかった。

電通に途中入社した頃は「電通の人はみんな偉そうだ」と思っていた。「中村くん、電通っぽいね」なんてゼッタイ言われないようにしようと心に決めた。電通の人がよく言う「お得意」という言葉はゼッタイ使わないと決めた。だって、お得意様というのはサザエさんと三河屋さんのような信頼関係をいうのだから、競合プレゼンをさせるクライアントをお得意様と呼ぶのはオカシイと思ったから。だからずっと「クライアント」と呼んでいた。

28年近くお世話になった。「電通の人はみんな偉そうだ」は撤回する。「偉そうなのは、ごく一部だ」だ。社長にメールをしたら、返事が来た。こんな大人数の大企業の社長が返信をくれるなんて。感激した。やっぱり電通という会社は「人」を大事に思ってくれる会社なんだとつくづく思った。それとも、社長の名前がボクと同じ「タダシ」だからかな。

電通のみなさん、お世話になりました。電通人であったことを誇りに、明日から「コピーライター中村禎」として生きてゆきます。ほんとうにありがとうございました。


最後の辞令」への4件のフィードバック

  1. お疲れ様でした。
    これからがとっても楽しみです
    知人友人に自慢しまくりますから、大活躍お願いしま~す

  2. 晴れてて暖かくて、ちょっと寒くて、桜が咲いていたり、咲いていなかったり、選抜高校野球の決勝戦やってたり、乙武さんが不倫してたり。。。そんな平成28年3月31日、卒業おめでとうございます!!

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