スタジアムの言葉


3年前の大阪長居競技場 親善試合で日本がオーストラリアに勝った試合後、オーストラリア側のコンコースに「アジアカップ決勝で会おうぜ!」というメッセージ。

日本代表がロシアW杯出場を決めた埼玉2002スタジアム、オーストラリア戦。そこで掲げられた横断幕の言葉についてフェイスブックに自分の思いを書きました。それに少なからずの反響がありました。同意してくれた意見もあり、そうは思わないという声もあり。一連のコメントをもらって初めてわかった事実もあり、思い出したことや、考えたことをもう一度まとめておこうと思ったのでした。

まず最初に、先日書いた文章が、これです。
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残念な横断幕
ロシア行きを決めた試合後の埼玉2002のスタンド。数年前(2009年南アフリカW杯最終予選の時)にオーストラリアサポーターが掲げた「Nippon Forever in Our Shadow!」(日本は永遠に俺たちの影)に対してのジョークなんだろうけど、これを準備しておこうぜ、と思ったセンスにちょっとガッカリ。

1997年フランスW杯最終予選で日本が苦戦していた時、ライバル韓国はすでに出場を決めていた。その韓国での最終予選の日韓戦、チャムシル競技場。もう絶対日本が負けられない試合で、韓国サポーターの真っ赤なスタンドに『一緒にフランスへ行こう』という横断幕があった。ボクは日本人としてうれしかった。韓国サポーターの方がW杯の先輩だった。

ボクだったら、日本サポーターがオーストラリアに仕返しするんじゃなくて、『一緒にロシアへ行こう』って言葉を掲げたい。それを試合前に準備しておく。そしてロシアで同組になってドイツW杯での借りを返すのが、一番カッコイイと思う。

と書きました。
(注:2006年ドイツW杯の予選リーグ第1戦日本vsオーストラリア戦。1点リードしたものの終了間際に3点入れられ逆転負け。当時オーストラリアはオセアニア地区。現在はアジア勢同士が1次リーグで同組になることはありません)
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この書き込みに対して「そうだ!そうだ!」という同意のコメントと「いや、あれはあれでいいじゃないか」というコメントが集まりました。ボクは両方の考えがあっていいと思うし、あるだろうと思っていました。だから、ボクならこうする、を書いたわけです。いろんな声が聞けて意義のあるスレッドになったと思います。

すると、これらのやり取りを見ていた「ある事情通」が書き込んでくれました。「正也さん」です。正也さんは、国内はもちろん、多くの海外アウェイの日本代表の試合を現地で応援している、コアなサポーター。海外で見かけるおなじみの日本語の横断幕も、正也さんたちが張ってくれている横断幕もあります。(他にもいろんなグループがあるらしいです)で、この正也さん、ボクともフェイスブックで繋がっている友だちなのです。そこで知った、この「お返事横断幕」の背景をもっと多くの人に知ってもらうべきだと思ったのです。

まず時系列で話を整理すると
南アフリカW杯最終予選の最終節。2009年6月17日、オーストラリアのホーム、メルボルン・クリケットグラウンド。日本は1点先制するも、「天敵」ケーヒルに2点を決められ逆転され、敗北。その試合終了後、オーストラリア側のスタンドに掲げられたバナーがこれでした。「NIPPON;FOREVER IN OUR SHADOW(日本は永遠に我々の影)」

で、今回の「AUS; Forever in Our Shadow!」は、その時メルボルンにいた正也さんの先輩の日本サポーターたちが出した横断幕なのだそうです。ただ、メルボルンでのメッセージに対しての「仕返し」の意味とは違って「日豪のサポーターシーンの中で、彼ら(オーストラリアサポーター)が日本をそういう相手として見てくれている事に対して、僕ら(日本サポーター)も返事をしている、だけなんです」と正也さんが教えてくれました。

考えてみれば、スタジアムでお互いの代表チームを応援していて、サポーター同士も自然と顔見知りになるだろうし、知り合いになってそういう話をしているんだろうと想像できます。実際、正也さんの知り合いのオーストラリアサポーターとも「それやり返すべき!お互いにサポーターから盛り上げていいし」って話していたそうです。

さらに貴重な裏話を教えてもらいました。日本から「AUS Forever in Our Shadow!」のメッセージは、いつか出したいね、という話はすでにあったそうです。3年前の大阪長居競技場でのオーストラリア戦で勝ったら出したい!という話になりかけたそうですが、正也さんが「親善試合で勝つのはリベンジじゃないし、アジアカップも控えてるので【決勝で会おうぜ】みたいなほうがいいと思う」って話して、みんな納得して、こんな幕をオーストラリア側のコンコースにだけに出したそうです。『See you against at final in the Asian Cup!!』(写真参照)そういう「心意気」があったのですね。でもそういう話はテレビ中継からだけでは伝わってきません。

正也さんは、「オーストラリアが嫌いで、ザマァ見ろ、なんて思っていないことをわかってほしい」と言っていました。そういう意味でも「ともにロシアへ」のメッセージも欲しかったなぁ。

正也さんとのきっかけ
で、そもそもボクみたいに(フランス、日韓、ブラジルW杯には行きましたが)テレビ観戦しながら文句言ってるサポーターと声を枯らしたコアな横断幕サポーターの正也さんがどうやって繋がったか、のお話をしておきましょう。

ボクはコピーライターとして、東日本大震災直後、サッカー日本代表の仕事を担当していた時期がありました。その時、ブラジルW杯のザックジャパンの時に書いたのが「新しい日本を見せよう。」というコピーです。これはキリンカップなどのバナーとして使っていただきました。このコピーは、キリンの広告コピーですが、ボクとしてはサッカー日本代表の横断幕の言葉のつもりで書きました。負けている時や疲れている時、選手やサポーターたちがこれを見て「よっしゃ!」と思ってもらえる言葉、のつもりです。

ブラジルW杯後、アギーレジャパンになった頃、新しいCMを制作しました。使える映像は撮影するのではなく、最新のキリンカップや親善試合などの試合映像をつなぐものです。編集して音楽を入れてコピーを入れて、一つ重大な問題にぶち当たりました。使っている映像にとある横断幕が映っているのです。たいていのものは事前に許可を得ているものの、これはまだ連絡できていない。確認が取れていない横断幕が背景に映っている。
CMの中のワンカット

それが「日本人として、仲間として俺等は此処に居る」という横断幕でした。無断でCMに使うわけには行きません。どうやってこの横断幕の持ち主、責任者を見つければいいか、スタッフはスタジオで途方に暮れかけました。その時、閃きました。

ブラジルW杯に行った時、ボクは多くのサポーター仲間と知り合うことができました。その人たちのネットワークで、あの横断幕の持ち主がわからないだろうか?スタジオから何人かにメッセージを送ったところ、すぐに返事がきました。「○○に聞けばわかるんじゃないか?」「あ、それウチのですw」「今は正也がリーダーとしてやってます」あっという間に持ち主がわかった。それがきっかけで正也さんと繋がることができ、許可を得ることができたのです。
先日のオーストラリア戦のゴール裏にもしっかり掲げられていた「日本人として、仲間として俺等は此処に居る」

幕を運ぶ
この言葉の横断幕は、正也さんが先輩たちから受け継いだもの。もう日本代表の試合を代々応援してきた汗と涙の染み込んだ横断幕なのでしょう。しかも世界中を飛び回って。スタジアムで見かけるこの横断幕。スタジアムでは見慣れているけど、これを運んでいるところを見たことある人は少ないと思います。大抵試合の数時間前にスタジアムに到着し、観客が入る前に一番最初に張られるものだから。

2014年 Arena das Dunasへの道 NATAL Brasil

この写真はブラジルW杯、ナタウでの日本vsギリシア戦のスタジアムまで歩いている時のもの。偶然、横断幕を運んでいるサポータを発見。こんなに大きな荷物を毎試合運んでいるんですね。(右を歩いている日の丸チョンマゲ甲冑の人は有名なツンさんです)やはり、試合に掲げられる横断幕には「魂」が込められているんだなぁ。

何年にも渡って先輩サポーターから引き継がれた「言葉」。顔見知りの相手サポーターへの挨拶、返事としての「言葉」。広告コピーなんだけど選手やサポーターに届けたい「言葉」。勇気をくれる言葉、励ます言葉、笑いを取る言葉。言葉にはそれぞれ目的があるけれど、正解はありません。スタジアムに掲げられる言葉にも、もちろん正解はない。広告コピーと一緒で、正解はない。「いいね!」という人もいれば、「そうかな?」という人もいる。だからこそ、一人でも多くの人に届く言葉を、考えて考えて選ぶ。これからも声援だけでは届かない、「スタジアムの言葉」を大事に見ていこうと思います。

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