長友さんと一緒に【稀代】⑤ ○○


へー、そないなことになってんのん? と長友編集長

クリネタ28号 Photo by 木内和美

クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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「神楽坂のBAR」と聞くだけでもう、ちょっといい雰囲気の佇まいを想像してしまう。場所というか住所というか地名というか、そういう名前はとても大事なんだなと思う。地図を見ながら夕暮れ時の神楽坂を歩く。路地を入るといくつか目印になるお店を頼りに歩くと、暗闇にぼんやり灯りが燈る。料亭のような、個人宅のような「○○」という灯り。ガラガラガラ。格子戸をくぐって「ほんとにここでいいのかな」と思いながら玄関へ。ごめんください、おじゃまします、という気持ちで靴を脱いで上がる。京都かどこかの小料理屋に迷い込んだような気分。

畳に座布団で足は伸ばせる掘り炬燵式カウンターに6、7人。こりゃ落ち着くわ。ここを知っている、というだけでちょっと自慢できる店だ。連れて来られたらたぶんうれしい。古い日本家屋に少しだけ手を加えた隠れ家のような会員制のBAR。出版社関係のお客様が多いらしく、いろんな本を置いて行ってくれる。いろんな本が置いてある。読書好きの人の家に上がり込んだような錯覚。

2階に上がる階段の下のスペースに、ちょうどいい二人用の席がある。小さなちゃぶ台と座椅子の席。階段があるということは2階もあるんですね。もしかして誰か住んでるわけじゃ・・・。「2階のお座敷も客間なんですよ」と。階段を上がると6畳ほどの和室。ここで落語の独演会をやることもあるそうで、常連さんグループの集まりや、なにやら「密談」するのにちょうどいい部屋だった。しかし二階の部屋は「男女二人っきりはお断りしています」ですって。

「一見さんお断り」とか「会員制」というような野暮な表示はしていない。けれど、この玄関の佇まいを見れば、ぶらっと来て入れる場所じゃないことくらいわかる。けれど年に何回か「ここ、お店ですか?」と言いながら迷い込む人もいるらしい。

紹介がないお客様はお断りする、というお店はたまに聞く。いままで「なんだか上から目線な店だなぁ」という印象だったけれど、お店側からしてみたら、お客様には来て欲しいけど、どんな人が入って来るかわからないんじゃあ不安でしかたがないだろう。やっぱり、一度来てくれて「いい人だな」と思えるお客様の知り合いなら安心できるし、もしイヤな人だったらその知り合いのお客様を通じて文句も言える。お客さんにとってもヘンな人が入って来ないほうがいい。

BAR「○○」のオーナー○○○さんは若いころ、銀座でお店を始めた。そのときの店の名前が「○○」だった。○○○○のことは知っていたが、とくに好きだったわけではなかったらしい。きっぱりそう言うところが清々しい女性だ。「○を○く、なんてとても色気がある名前じゃないですか」銀座七丁目あたりで、小さなBARを始めた。お店が軌道に乗り始めた頃、「○○」という名前を使わせていただいているのだから、一度ご挨拶に行かねばと、雑司ヶ谷にある○○○○のお墓を訪ね、見守ってくださいと手を合わせたそうだ。律儀。

ところがお店が順調に行き始めたと思ったら、その店に建て壊しの話が持ち上がる。結局、銀座の「○○」は3年で閉めることになる。20代で始めた銀座の店。お客さまも増えてきて、さあこれからという時に立ち退きを迫られる。さぞ悔しかったことだろう。お店への愛着もどれほどだっただろう。

と話していたら「ジオラマ、見ます?」と○○さん。精巧につくられた二十分の一のお店の模型。小さなカウンター、ソファの席、ボトルの棚、見事に再現されている。昭和の映画のセットのようだった。こういう模型を見て愉しむのは男だけかと思っていたら、案外○○さんも男っぽいんですね、というと「私はお店という空間をつくったんだと思っているんです。だから、写真じゃなくて、その場所の記憶や記録を三次元で残しておきたかったんです」今なら3Dプリンターで自分やお客さんのフィギュアも置きたくなってしまう。「トイレも作っておけば良かったと後悔してるんです。トイレもかわいかったんですよー」

銀座の「○○」を閉めたあと、傷心の日々。とにかく一日でも早く日本を脱出したかった。そして「世界一周ひとり旅」へと旅立つ。ハワイからロス、アリゾナ、ラスベガス、グランドキャニオン、シカゴからAmtrakでニューヨーク。大西洋を渡りリスボン、マドリード、フィレンツェ、ウイーン、プラハ、ベルリン、フランクフルト、ブリュッセル。リールから船でドーバー海峡を渡りロンドン、ストックホルム、サンクトペテルブルク、モスクワ。北京、ソウル、そして日本。ふぅ。ほぼ2ヶ月のひとり旅。アメリカ横断鉄道やユーレイルを乗り倒した。まるで「ひとり世界の車窓から」だ。

「鉄道好きなんですか?」と聞くと「ええ、テッちゃんですよ」と軽く返ってきた。「見ます?」と差しだされた雑誌は「旅と鉄道」その表紙に駅にたたずむ女性。よく見ると「あ、似てる?」似てるんじゃなくて、その表紙の旅人は○○さん本人だった。「特集の『津軽半島一周紀行』のページ、私が書いたんです」と。14ページの特集記事。これ全部○○さんが?「本を読むのも好きですが、書くことも好きになってきました」と。

『傷は癒えたけど出会いはなかった』という世界一周の旅から戻り、今度は自分のペースでできる場所でお店を再開しようと場所を探し始める。偶然出会った神楽坂。この家の大家さんは若いころ芸妓さんで、ここに住んでいらしたそうだ。その大家さんは「いずれはここでBARをやりたい」と思っていたらしい。

大家さんはもう自分でお店はできない年齢になられたというので、この場所を貸す事にした。そんなとき、BARにしたいと思って探していた○○さんが現れた。運命的な出会いだったのだろう。どこの町で店を構えるか。自分のペースでできる店を出したかった、○○さんは考えた。「神楽坂を選んだのは、花街がいいと思ったから。神楽坂はほら、昔から女が商売をしてきた街でしょ」と。なるほど。
○○さんはこのBARが、あるいは○○さん本人が、人と人との化学反応の接点になれると面白いなと思っている。「いろんな職業のお客さんがいて、あの人とこの人が出会ったら、何か新しい、面白い化学反応が起きるかもしれない。そのキッカケになれたら楽しいですね」いちおう会員制のBARだから「クリネタを見て来ました」だけではムズカシイかもしれません。なんとか伝手を探して行ってみましょう。

追記:「本が好きで、書くことが好き」と聞いた長友編集長は即座に「クリネタになんか書いてもろたらえーやん」と。で、書評「きなみえりの読書感想文」というコーナーができました。

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〒162−0832 東京都新宿区○○町○○番地

営業時間19:30〜24:00(23:30ラストオーダー)

土日祭日休み
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No.28 (2014年冬号)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで
【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋
長友さんと一緒に【稀代】⑤○○

後日「名前は出したくない」との申し出があり、○○とさせていただきました。

年賀状 2022

(自分との)約束を守る

「やろう」と決めたことは、やる。
ま、いっか、じゃなくて、やる。
だってそれは、自分との約束なのだから。
自分で自分のケツを叩く。
そんな2022年元旦
あけましておめでとうございます

コピーライター 中村禎

年賀状2021

一日一ミリ

昨日より少しでも 穏やかな人になる
昨日より少しでも 血液サラサラにする
昨日より少しでも アレを上達する
一日一ミリでも 成長できる毎日を送る
そんな 二〇二一年元旦
あけましておめでとうございます
今年も 仲良くお願いします

コピーライター 中村 禎

プラハのおしり


句会という遊びは本当に楽しい。まず季題が三つ発表されます。今回は冬の季語「霜柱」「外套」「白菜」の三題。締切日まで一所懸命考える。歩きながら、電車に乗りながら、ちょっとした待ち時間にも考えて、メモをする。こっちの方がいいかな、あっちの方がいいかなと悩む楽しみ。

そして投句して、当日みんなが集まリます。幹事の人が全員の句を壁に貼ってくれている。天・地・人のベスト3を選んで発表します。「天」の人には短冊に句を書いてプレゼントする。「天」じゃなくても「地」でも「人」でも、誰か一人でも「好き!」と言ってもらえると、こんなにうれしいことはないんです。その一人がいてくれるだけでもう、その日は楽しい。しかし、誰にも何も引っかからない日もある。その日は口数が少なくなります。

コピーライターやアートディレクター、CMディレクターが集まる句会。(ここから自慢話)今回はなんと、4本も「天」をいただくことができました。

白菜や白いおしりの並ぶ市

外套の男プラハの市電待つ

「白菜」と「冬」を考えると、年末に母親が白菜の漬物をつけるために、大きな白菜を4玉くらい買っていたのを思い出します。買い物に付き合わされて、重い白菜を母と二人で持って帰る。年末の慌ただしい市場に大きな白菜がずらっと並んでいる光景が浮かんだのでした。

「外套」はコートより重そうな気がしました。ぶ厚いウールのマントのような。色は茶色。寒い街。寒い街は、東京ではなく、東欧を思い浮かべました。プラハに行ったことがあって、行ったのは春だったけど、あのプラハの冬は寒いんだろうな。そして古い外套を着た大柄な人もいるんだろうな。プラハの路面電車を待ちながら、雪が降り始めたりするんだろうな。一人で電車を待っていると寒いんだろうな。そんな景色が浮かびました。

みんなから「プラハ」はズルい、「おしり」もズルい、「完全に狙って来てる!」と言われましたが、本当にそんな景色が浮かんだわけだし、それを書いただけですから。俳句の技術があるわけじゃないので、ホントに浮かんだ景色を五・七・五にするだけです。「天」を取ろうと思って書いたって、取れるものではありません。多分外すと思います。次回の句会は春。季題はボクが考える番です。それを考えるもの、句会の楽しみであります。

追伸:ちなみにもう一つの季題「霜柱」には一票も入りませんでした。

朝練のグランドシャリシャリ霜柱

ダメでした。

平成最後の年賀状


大晦日に考えた。来年のテーマは何にしようか。毎年(手書きの)手帳の初めのページにその年の目標を書くことにしています。2019年はどうするか。

『時間をたのしむ』

早い話、時間を大切に使おう、ということなんですが、ただ『時間を大事に!』と書いても、なんか堅苦しい。なんか予定調和。これじゃ心も体も動かない。日々の生活の中で、「いま、たのしいか?」と自問してみる。「あんまりたのしくない」なら、なぜたのしくないのか、やり方を変えてみようか、と考える。そして「たのしい!」となれば、その時間は有効に使われている、ということになる。

ひとりの時間を、たのしむ。
あの人との時間を、たのしむ。
考える時間を、たのしむ。
ボーッとする時間を、たのしむ。
締切までの与えられた時間を、たのしむ。
ちょっとした空き時間を、たのしむ。
限りある時間を目一杯たのしむ。

中村禎はその時間を、たのしんでいるか?と常に問うことにしよう。

そんなことを考えた2019年元旦、
あけましておめでとうございます。

という言葉をfacebookに載せました。元旦に書いてみなさんに見てもらう年賀状です。手書きの文字で書いたほうが自分の声で届く気がするから、手書きの文字で書きたかった。「いいね!」を押してくれた人にはこの原稿用紙の年賀状が届いたということ。切手を貼って出すよりも、多くの人に見てもらうことができました。メッセージをくれた人には、こちらからも言葉を返せる。年賀状は、その人の気持ちとボクの気持ちがつながることが大事だと思うので、郵便局にはわるいけど、こういうカタチの年賀状もいいんじゃないかと思ったのでした。

お前もな!


コピーライター養成講座金沢クラス 宣伝会議賞応募者へ何かアドバイスを、と書いたコピー

【宣伝会議賞に応募しようとしている人たちへ】この言葉を贈ります。どうやったら賞が取れるだろうとか、どうやったら褒められるだろうとか、ショボイこと考えながら書くんじゃないよッ。

その課題に対して、『ホントに思ったことを書け(言いたいことがないなら、書かなくてよろし)』

そして今年もまた、宣伝会議賞応募する人たちのケツを叩きます。締め切り前日に書いて出したコピーで賞を獲った女の子の話、聞くぅ?

一番カッコ悪い言い訳

(とかなんとか偉そうなことを言いながら、同じ言葉を自分にも投げかけています。「お前もな!」と)

いいコピーは何度でも


佐賀県 武雄市 · 武雄温泉 大正浪漫の宿 京都屋にて

出張先のホテルのロビーで、ふと目に留まったチラシ。
いいコピーじゃん、と思ったら。あ、ボクが書いたコピーじゃん。
(1992年頃に書いたキリン一番搾りのコピー)
しかも、ボディコピーまで忠実に再現してくれている。
フロントの人に聞くと、ビールはキリン以外を出しているそうな。
ええよええよ。コンプライアンス的にとか言わないで、なんだかニッコリ。
うれし〜。 http://nakamuratadashi.com/2013/05/27/post-2000/

人を助けるキッカケをつくる


今年も母の日から、ピンクリボンデザイン大賞の応募受付が始まります。今年で14回目。14年前の眞木準さんが審査委員長だった頃は、たしか「日本人女性30人に1人がかかる」と言われていました。それが今、11人に1人。でも、怖がる必要はないのです。正しい知識を持って行動すれば怖くない。たとえその11人の1人になったとしても、早期発見さえすれば大丈夫です。そのことをもっと知らせたい。もっと実感を持って伝えたい。行動に移させて欲しい。そのためのコピーとポスターデザインを募集します。

【審査委員長からのコメント】
ピンクリボンデザイン大賞は、コピーとデザインのコンテストのひとつですが、賞を狙ってつくるのではなく、人を助けるキッカケをつくるんだ、と思って取り組んでほしいのです。あなたが書いたその言葉、あなたが描いたその絵が、人の命を救う第一歩になるかもしれない。そう思って考え抜いてほしいのです。本気で思う気持ちは、必ず人の気持ちを動かすと信じていますから。たくさんの「本気」を待っています。(クリエイティブディレクター/コピーライター 中村禎)

http://www.pinkribbonfestival.jp/event/design/