山田先生への手紙

恩師に手紙を書く。まずキーボードでテキストを打つ。この漢字は間違っていないか、この言い回しは適切かどうか、確認しながら、何度も修正しながら書く。ほんとにデジタルの道具は便利だと思う。

そして、万年筆にインクを入れて、Macのテキストを見ながら清書する。字を間違えないように、ゆっくり書く。書き上げた原稿用紙を便箋に入るように三つ折りにする。そして読み返してみる、そのとき。

右手の中指と人差し指についたインクの指紋が原稿用紙についてしまった・・・書き直し。同じ文面を書く。今度は洗った手についた水で字がにじんでしまった・・・また書き直す。ほんとにアナログの道具は不便だと思う。

だから、手書きでもらう手紙はうれしいんじゃないだろうか。インクのシミがついていても、自筆で書いてくれたのだから多少のことは気にしまい。それより、そんなに手間をかけて、時間をかけて自分のことを考えてくれたということがうれしいじゃないの。と、相手も思ってくれることを期待して。

人に伝えるということは、文章の技術だとか、文字が達筆だからとか、そういうことは関係ないと思っている。相手への思いをどれだけ込められたか、じゃないかと、ボクは勝手にそう思っている。自己満足かもしれないけれど。

中学時代一番怖かった恩師に自分の書いた本を送れるという、有難き幸せ。今年のお盆は、何十年ぶりかの福岡県北九州市門司区の、中学時代の同窓会に出席する。

長友さんと一緒に【稀代】⑧ボロンテール

軽く握った右手のグーをカウンターに置き、「○○○○や、っちゅうてんねん」とか言いながら、軽くトンと叩く仕草がありましたなぁ。
クリネタ31号 Photo by 木内和美

「稀代」(けったい)とは、なんだ? クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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JAZZ BAR ボロンテール
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長い友だち

赤坂見附の一ツ木通りに、和田誠さんのイラストが飾られた店があるのをご存知だろうか。ビルの2階の窓に飾られているので、歩いていても気づかないかもしれない。店の前を歩くより、舗道の向こう側からのほうがよく見える。サックスを持ったレスター・ヤングと唱うビリー・ホリデー。JAZZ BAR ボロンテールだ。

赤坂に引越してきて4年、その前は明治通り沿いの原宿で34年。1977年オープンの老舗バーである。われらが長友編集長が38年前から通っていたバー。長くお店を続けるのもタイヘンだけど、通い続けるお客さんもタイヘンだ。いや、毎日顔を出すわけではないので、そうタイヘンでもないか。むしろ、そんな長いこと通えるバーがあることが幸せなことだ。お店を友だちに喩えると、長いつきあいの友だち、幼なじみのような友だち。(あ、「長」い「友」さんか)原宿から赤坂に引越しても友だちに会いに行く。友だちが会いにきてくれる。

 

シルバー街

原宿でスタートした当時のボロンテールは、ファッション業界デザイン関係の溜り場だった。そう、セントラルアパートがあった時代。そのあたりには小さな店が何軒かあった。常連さんたちはそこを「シルバー街」と呼んでいて、長友さんは「シルバー街に寄ってから、(新宿の)ゴールデン街に行ってたんよ」だそうだ。

原宿のお店は明治通りの拡幅工事のために立ち退くことになる。そういえばあの、明治神宮前の交差点近くから、明治通りの渋谷方面へ斜めに入っていく道がある。その道を行くと明治通りに合流する三角地帯のような場所があった。ああ、あそこの角だったんですね。角の細いビルで、らせん階段を2階に上がったお店だったそうだ。「和田誠さんの描いてくださった当時のお店のイラストがあるんですよ」とオーナーの坂之上京子さん。週刊文春の表紙に描かれたイラストが額装されて飾ってあった。

幸運なレコードたち

昼はカフェタイム。(弟の聡さんがマスターで、野菜たっぷりパストラミ・ビーフサンドがおススメ)夜はバータイムで、いつも名盤LPのジャズが流れている。お酒の種類よりレコードの数のほうが圧倒的に多い。だって約三千枚。長い年月かけてコツコツ集めた貴重なアナログレコードとジャズメンの肖像画や写真が飾られたバー。

『ボロンテール』とは「ボランティア」の語源となったフランス語で、「気ままな空気」「前向きな、いい空気」といった意味らしい。オーナーの京子さんがつくりたかったお店のイメージ通りのネーミングだ。三千枚ものレコードがあって「お客さまからリクエストがあったらすぐ見つかるのですか?」と聞くと、だいたい何がどこにあるか、頭に入っているらしい。京子さんなりのルールで整理しているそうだ。小柄な京子さんが一番出しやすい位置の棚にはよくかけるアルバムが置いてある。

「この三千枚のレコード、実は危なかったんですよ」と京子さん。原宿を立ち退く日が迫っているのにまだ次の行先が決まっておらず、もう少しレコードだけでも置かせてもらえないか、とお願いするもダメで。仕方なく倉庫を借りてそこに預けることに。それが2011年2月末日。つまり、3.11の直前だったのだ。もしあの時そのまま、原宿の店に置いたままだとたぶんレコードも被害を受けていたはず。もう二度と手に入らない貴重な名盤たちが命拾いした。そう思うと、原宿から赤坂に引っ越さなければならなくなったのも、何か運命なのかも、と思えてくる。

ふたつの心臓

この「ボロンテール」のこの三千枚のレコードは財産であると同時に、オーディオ機器も重要だ。60年代のJBLアンプ。古い曲を聴くのにはやはりその時代につくられたオーディオが合う。JBLというとスピーカーをまず思い浮かべるが、オーナーにとってはこのJBLアンプが大事なのだという。なにしろ2台もあるのだから。「なぜ2台もあるんですか?」と聞くと、「もし壊れたら困るから、予備に」ということ。まさにボロンテールの心臓なのだ。

オーナーの京子さんにレコードの話をお聞きしていると、うれしそうに話してくれる。CDやiPodで音楽を聴くことが当たり前になってきたけれど、そういえばターンテーブルのレコードで音楽を聴いていないなぁ。ボロンテールには、33と1/3回転のLP(ロング・プレイ)、45回転のEP(エクステンディッド・プレイ)、そして、1分間に78回転のSP(スタンダード・プレイ)がある。

音楽好きなお客さんのために、なかなか聴けないSP盤大会やEP盤大会の夜もあるらしい。店内を見渡すと窓の上にロール式のスクリーンがあった。「あれは何に使うんですか?」と聞くと、「トークショーをときどきやるんです」という。映像を見ながら、シャープ&フラッツの原信夫さんによる「戦後のジャズ史」のトークショーも開かれたそうだ。

秘密の蓮の花

白木の曲線のカウンター。オーディオやレコードを収納する棚にも曲線が活かされた内装。「原宿のお店の雰囲気もこうだったのですか?」と聞くと、全然違うのだという。「だって、新しいものをやりたいじゃないですか」と京子さん。

「でもね・・・一か所だけ前の店の名残があるの・・・」と。当時お店に、蓮の花のカタチをした照明器具があった。その照明はもうないのだけれど、その「蓮の花」を模った照明を作ってもらった。それはお店の中の、とある柱の上にさりげなく灯っていた。たしかに蓮の花だ。Kenny Dorhamのロータス・ブロッサムという曲にちなんだのだという。原宿時代からのお客さんも、気づいている人は少ないんじゃないかな。こんどお店に行ったとき、柱の上を見渡して見つけてください。ロータス・ブロッサムです。

常連のリクエスト

若い頃はたくさん買えなかったけど、コツコツ買い集めてきた愛しいレコードたち。「もしかしてビートルズのLPとかもあったりして、アハハ」と冗談のつもりで言ってみたら「あるんですよ」ですって。カウンターからは一番遠い棚の上のほうにあるらしい。閉店時間が近くてお客さんがいないときにかけることもあるという。JAZZ BAR ボロンテールでビートルズを聴けるにはもっともっと常連にならなければリクエストはできないだろう。クリネタを読んで来ましたと言えば、かけてくれるかな。
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JAZZ BARボロンテール
http://volontaire.jp

〒107-0052 東京都港区赤坂5-1-2 赤坂エンゼルビル2F
営業時間   12:00 – 02:00
CAFE TIME  12:00 -19:00 (L.O.18:30)
BAR TIME  19:00 – 02:00(L.O.01:30)

定休日      日曜
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No.31 (2015年秋号)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋
長友さんと一緒に【稀代】⑤抱月
長友さんと一緒に【稀代】⑥EST!
長友さんと一緒に【稀代】⑦赤道倶楽部
長友さんと一緒に【稀代】⑧ボロンテール

蛇足:この日の取材のあと、まだ明るい夕方だった一ツ木通りを編集団で歩いていて、セールをしているブティックの前を通りがかる。すると長友さんは「ちょっと見てみる?」と店に入り、これええね、とチェックのシャツを2、3枚ご購入。「なんか旅先のお店で洋服買ってるみたいですね」というと「ゆっくり買いに行く時間がないねん」と。そしてみんなで近くの開高健さんも通っていたBARへ。しあわせな時間でした。

長友さんと一緒に【稀代】⑦赤道倶楽部


ボクも、タックルとかしてたんやでぇ とラガーマンの長友編集長
クリネタ30号 Photo by 木内和美

「稀代」(けったい)とは、なんだ? クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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赤道倶楽部
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バーは、カウンター
赤道に行ったことはありますか?赤道と聞いてどんな風景を想像しますか? 海か、砂漠か、密林か。今回の稀代(ケッタイ)なお店は銀座にある「BAR&RESTAURANT 赤道倶楽部」

店に入るとまず目に飛び込んでくるのが不思議なカーブを描く真っ赤なカウンター。店の中央をぐるりと囲む大きな唇のような真っ赤なカウンター。その不思議なカタチは実はアフリカ大陸を表わしているのだそうだ。アフリカ大陸のカタチをデフォルメしたカウンター。スタッフが出入りするために開いている部分がちょうどアフリカ大陸東側の赤道。今回の取材写真で、三人の編集団が座っているのがコートジボワールあたり。取材の私は南アフリカあたりに着席。カウンターはアフリカ大陸だし、壁には象徴的にスポットライトがあたるムパタのピンクのサイ。

実は私、この店をアフリカの店かと思い込み過ぎていた。お店のコンセプトを読むと、『赤道地帯の恵みを再発見』とある。そうか、赤道は地球を一周しているので、アフリカだけのものじゃない。赤道直下の国々にはボルネオ島やスマトラ島を含むマレーシア、インドネシア諸国、ケニア・ウガンダ・タンザニアなどアフリカ諸国、エクアドル・コロンビア・ブラジルなど南米諸国もある。ま、でも、そんな堅いこと言わずに飲みましょうか。(毎号クリネタの稀代をお読みになってくださっている人は気づいたかもしれません。前号の『湯島EST!』の見出しには「バーは、棚」と書きました。今号は「バーは、カウンター」です。そのBARに初めて入った印象がそのBARを決める、と勝手に決めたのでした)

マイネーム・イズ・真羽闘力
「赤道倶楽部」のコンセプトや自慢のメニューの話もしたいのだが、最初に彼の話をしないわけにはいかないだろう。今年の4月から店員として迎えた大物。名刺は「真羽闘力」さん。力士ではない。「まう・とうりき(Toriki Mau)」さん。ラガーマンだ。しかも、元日本代表のラガーマン。赤道にも近い南太平洋に浮かぶ島、トンガ王国出身。日本語はペラペラ。それもそのはず、日本に来て早や20年。神戸の名門六甲クラブでずっとラグビーをやってきたのだ。残念ながら私はサッカー派なので、このマウさんの凄さはわからないが、ラグビーの本場から来て日本に帰化して日本代表で戦った選手。サッカーで言えばラモス瑠偉か呂比須ワグナーか田中マルクス闘莉王といったところだろうか。思わずお店の取材を忘れて、ラグビーの話で盛り上がる。

185cm110kgの肉塊が100m11秒台で向かってくる。なんて恐ろしい競技なんだラグビーは。そういえば、我らがクリネタ長友編集長もラガーマンだった。あんなニコニコしながら「まあ、ええやないの」とか言いながらタックルしていたのだろうか。想像できない・・・。まあ、いいけど・・・。

マウさんのごつい手がメーカーズマークのオン・ザ・ロックをつくる。メーカーズマークってミニボトルもあったんだっけ?と思うほどのボトルの小ささ。いや、マウさんの手がデカイのだ。山崎12年もミニボトルに見える。ロックグラスがショットグラスに見える。「お酒も相当強いんですか?」という質問に「はい」と即答。聞くまでもなかった。

そのマウさんの手にカメラマンのレンズが寄っていく。「ちょっと撮らせてもらっていいですか?」ごつい手にキレイなタトゥー。なんか云くがありそう。このタトゥーの物語は、直接お店で聞いた方がいいだろう。 あまりラグビーの話ばかりしていると、赤道からズレてくるので、この「赤道倶楽部」の話に戻そう。

この店は、体育会の部室のような店ではなく、もっとスマートなBAR&RESTAURANTなのだ。メニューはあとで紹介するが、女性のバーテンダーもいるお洒落なBARだ。赤道直下から来た女性ではないが、常時2名いる。ムパタの絵のそばにはアフリカの写真集なども飾られてあり、ギャラリーのようでもある。

なぜ「赤道」なのか
「赤道倶楽部」にはちゃんとした理念がある。なぜ「赤道」なのか。「赤道」じゃないといけなかったのか。『太平洋、インド洋、大西洋に帯状に分布する赤道気団のもと、高温多湿の気候条件に恵まれ、多様な動植物の、生命の彩が濃密な地域。赤道地帯は人類発祥の地でもあり、大航海時代以降は、その豊かな生物資源が世界中の食文化に多くの影響を与えてきました。「赤道倶楽部」では、そんな赤道地帯の恵みとして、ナッツやスパイス、赤道の国々で親しまれているビールなども取り揃えて・・・・』(パンフレットの文章より)とある。タスカーというケニアのビール。殻付きのままローストしたマカデミアナッツ。食事療法にも欠かせない食材「スパイス」にこだわったメニュー。チョリソー入りポテトサラダなどのおつまみから、お腹の空いた人のためにサラヤの10種の野菜カレーも用意されている。

赤道の約束
最後に、「赤道倶楽部」の活動を報告しておこう。それは「赤道倶楽部1%基金」だ。売上の1%を赤道周辺の途上国・地域の「衛生・環境・健康」向上に寄付している基金。赤道直下で活動する「NPO法人 ボルネオ保全トラスト・ジャパン」「スマイル アフリカ プロジェクト」という2つの団体を支援している。赤道直下のビールを飲みながら、赤道直下のスパイスの効いたサラダを食べながら、遠い赤道の国々を思いながら、アーコリャコリャになっていく。我らがクリネタも記念すべき30号を迎えた。「100号記念はみんなでアフリカに行こか!」と長友編集長が言う。しかし、その頃までみんな元気でいられるだろうか。せめて50号記念くらいにしときましょか。

BAR&RESTAURANT 赤道倶楽部
http://sekidoclub.com/
東京都中央区銀座1-13-8 ハビウル銀座2F
■03-6228-7295 営/18:00~24:00(23:30ラストオーダー)
休/土日祝

No.30 (2015年夏号)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋
長友さんと一緒に【稀代】⑤抱月
長友さんと一緒に【稀代】⑥EST!
長友さんと一緒に【稀代】⑦赤道倶楽部

長友さんと一緒に【稀代】⑥ EST!

へー、そのフレンチフライ食べてみたかったですなぁ と長友編集長
クリネタ29号 Photo by 木内和美

クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

「稀代」(けったい)とは、なんだ? クリネタおススメの、いい店、おもろい店
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EST!
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バーは、棚
「稀代」で取材させていただく店は「ケッタイな店」イコール「風変わりな店」ではなく、むしろ「唯一無二な店」「ファンタスティック!な店」の意味あいが大きい。今回は「湯島」と聞けば、「あ!」と思い出す人も多いのではないだろうか。オーセンティックなバー、EST!だ。ここを知らないなんてバー業界のもぐりではないかとさえ言われるくらい老舗中の老舗バー。オープンは1974年、この湯島の地でかれこれ41年。マスターの渡辺昭男さんは今年8月で81才を迎える。お元気です。なにか健康に気を付けていることはあるんですか?と聞くと「毎日ちょこちょこ動くことですかね」と笑う。天気のいい日は湯島まで自転車で通うこともあるそうだ。

カウンター9席、テーブル4席の小さなバー。重厚な雰囲気を醸し出しているのはバーの顔でもある酒の棚だ。渡辺さんが昔見た、ドイツの倉庫の写真からイメージされてつくられたもの。太い柱で組まれたその棚は東日本大震災の時もビクともしなかったそうだ。

「店を始めたころはこの棚もガラガラで淋しかったんです。この棚がいっぱいになるくらいのお酒の種類を揃えられなかった。それを見かねた人がBlack&Whiteを一列贈ってくれて。最初はそればっかりが並んでいたんです」
と渡辺さんは笑う。そうか、それでこのEST!の入り口にはBlack&Whiteのボトルがたくさんディスプレイされているんだ。オープン当初の感謝の気持ちを忘れずに41年目の営業をしているんですね。

「この店の柱や梁の木は私が焼いたんですよ」と渡辺さん。大工さんに頼んでも「できない」と言われたので、自分でガソリンバーナーで焼いて、タワシでゴシゴシ磨いて、自分で組み立てたそうだ。自分で組み立ててみて、なぜ大工さんが嫌がったかがわかった。手も身体も炭で真っ黒になってしまったのだそうだ。41年という歳月の味もあるだろうが、渡辺さんのその情熱がしみこんだ柱や梁がこのバーの雰囲気を作ってくれているのだろう。初めての来店でも落ち着いた気持ちになれるのはそのせいかもしれない。

ちょちょっとしたもの
昔は軽食として温かいものも出していた時もあったが、今はもうやっていないそうだ。「昔はフレンチフライを揚げていたんですよ。毎日ジャガイモ洗って切って、一日さらして翌日揚げて。若い頃はそれを毎日やっていたんですが、でも、いまはもう、ね。ちょっとシンドイもので・・・」一日分を切って洗って一晩さらして翌日揚げて。それを聞いただけでうまそうなフレンチフライ。絶対うまいはずです。食べたかったけど、いまはもうない。昔のEST!に通っていた人がうらやましい。

「ライ麦パンならありますけど、焼きましょうか?」なんか温かくて、ちょちょっと食べれるものはないですか?という長友編集長のお願いにやさしく応えてくれました。「クリームチーズをパンにはさんで焼くだけなんですが」「ぜひお願いします!」バーテンダーのつくる「ちょちょっとしたもの」って、なんかうまそうだ。

バーテンダーと薬剤師
満州で生まれ、九州佐賀県育ちの渡辺さんは薬剤師を目指して上京した。それがどういうわけか渋谷宇田川町のトリスバーの求人広告に目が留まり、バーで働くことになる。薬剤師とバーテンダー。薬の調合とカクテルづくりは、まあ似てるといえば似ているけれど、どうしてこの世界にはいっちゃたんでしょうかねぇ、と笑う。

60年前の渋谷宇田川町。バーといえばトリスバーくらいしかなく、渋谷の街はチンピラだらけ。「毎晩その辺に人が倒れているような街」だったそうだ。渋谷はヤバイ、銀座へ行こう。その後銀座のバーに移るものの、上野にバー「琥珀」がオープンするというので転勤。銀座の店からは「早く銀座に帰ってこい」と懇願されるも「琥珀」のママも渡辺さんを手放さない。結局上野の「琥珀」に18年。そして念願の自分の店「EST!」を湯島に持つことになる。

「EST!」とはフランス語で「ここにある!」という意味。東京大学醸造学の坂口健一郎教授が命名してくださったそうだ。店の外には「EST! EST!! EST!!!」と、ビックリマークが増えていくネオン看板が「ここにある!」と静かにアピールしている。

修行はチラ見
渡辺さんのふたりの息子さんもバーテンダーだ。長男の憲賢さんは、新橋のアトリウム・エン、次男の宗憲さんはアトリウム。ふたりとも新橋で。長男は東京のパレスホテルのBARで5年、次男は札幌の「BARやまざき」で、それぞれ修行を積んだそうだ。お父さんの元で修行させないんですか?と聞くと、「やはり外に出ないとね」と。

バーテンダー見習いは、ただひたすら見て習うそうだ。ああしろこうしろ、ではなく師匠の姿を見て盗む。カウンターの中でひたすら観察するのだ。お客様の前でつくるので、それを横からじっと見つめるわけにもいかない。「グラスを拭く素振りなどしながら横目でチラチラ見ながら盗むんです」と笑う。そこでの発見なり記憶なりが自分の味となっていくのだろう。(どんな仕事もそうなんですね。「教えるということは、自分の姿勢を見せること」と3代目市川猿之助さんも言っていました)

たとえばギムレット。辛口が好きなお客様もいれば、やや甘めが好みの人もいる。そのお客様の好みを探りながら、こうかな?ああかな?と試行錯誤するのが楽しいという。「ある意味、バーテンダーはお客様に育てていただくものかもしれませんね」。その渡辺さんは『お客の心で主(あるじ)せよ』という言葉を大事にしているのだという。

 

観察力と記憶力
「昔のパレスホテルのバーにミスター・マティーニと呼ばれる今井さんというバーテンダーがいましてね・・・」渡辺さんはその今井さんがつくるマティーニ、何回ステアするのか、こっそり見ながら数えたことがあったという。「そのときはたしか、15、6回でしたかね」

パレスホテルのバーには筆者にも思い出がある。当時パレスビルにある会社に勤めていた私は、社長のSさんに連れて行ってもらったことがあった。「Sさんは常温のハイボールがお好きでしたね」と渡辺さん。え!Sさんのこと、ご存じなんですか!「ウチのお店にもよくお見えになりました。常温のソーダ水でつくるハイボール。Sさんの名前のハイボールでした」もうそのSさんはお亡くなりになって何年にもなるのだが、好きだった飲み方まで憶えてもらっているなんて、いいなぁ。そして、そうして憶えてくれているバーテンダーって、いいなぁ。私もこれから常温でハイボール、頼もうかな。

取材の後の記念写真 あの日は寒かったなぁ 長友さんと一緒の写真に写れるだけでシアワセなことです

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EST! 
東京都文京区湯島3-45-3
■03-3831-0403 営/18:00~24:00 休/日曜
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No.29 (2015年春号)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋
長友さんと一緒に【稀代】⑤抱月
長友さんと一緒に【稀代】⑥EST!

長友さんと一緒に【稀代】⑤ 抱月


へー、そないなことになってんのん? と長友編集長

クリネタ28号 Photo by 木内和美

クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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抱月
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「神楽坂のBAR」と聞くだけでもう、ちょっといい雰囲気の佇まいを想像してしまう。場所というか住所というか地名というか、そういう名前はとても大事なんだなと思う。地図を見ながら夕暮れ時の神楽坂を歩く。路地を入るといくつか目印になるお店を頼りに歩くと、暗闇にぼんやり灯りが燈る。料亭のような、個人宅のような「抱月」という灯り。ガラガラガラ。格子戸をくぐって「ほんとにここでいいのかな」と思いながら玄関へ。ごめんください、おじゃまします、という気持ちで靴を脱いで上がる。京都かどこかの小料理屋に迷い込んだような気分。

畳に座布団で足は伸ばせる掘り炬燵式カウンターに6、7人。こりゃ落ち着くわ。ここを知っている、というだけでちょっと自慢できる店だ。連れて来られたらたぶんうれしい。古い日本家屋に少しだけ手を加えた隠れ家のような会員制のBAR。出版社関係のお客様が多いらしく、いろんな本を置いて行ってくれる。いろんな本が置いてある。読書好きの人の家に上がり込んだような錯覚。

2階に上がる階段の下のスペースに、ちょうどいい二人用の席がある。小さなちゃぶ台と座椅子の席。階段があるということは2階もあるんですね。もしかして誰か住んでるわけじゃ・・・。「2階のお座敷も客間なんですよ」と。階段を上がると6畳ほどの和室。ここで落語の独演会をやることもあるそうで、常連さんグループの集まりや、なにやら「密談」するのにちょうどいい部屋だった。しかし二階の部屋は「男女二人っきりはお断りしています」ですって。

「一見さんお断り」とか「会員制」というような野暮な表示はしていない。けれど、この玄関の佇まいを見れば、ぶらっと来て入れる場所じゃないことくらいわかる。けれど年に何回か「ここ、お店ですか?」と言いながら迷い込む人もいるらしい。

紹介がないお客様はお断りする、というお店はたまに聞く。いままで「なんだか上から目線な店だなぁ」という印象だったけれど、お店側からしてみたら、お客様には来て欲しいけど、どんな人が入って来るかわからないんじゃあ不安でしかたがないだろう。やっぱり、一度来てくれて「いい人だな」と思えるお客様の知り合いなら安心できるし、もしイヤな人だったらその知り合いのお客様を通じて文句も言える。お客さんにとってもヘンな人が入って来ないほうがいい。

BAR「抱月」のオーナー松島薫さんは若いころ、銀座でお店を始めた。そのときの店の名前が「抱月」だった。島村抱月のことは知っていたが、とくに好きだったわけではなかったらしい。きっぱりそう言うところが清々しい女性だ。「月を抱く、なんてとても色気がある名前じゃないですか」銀座七丁目あたりで、小さなBARを始めた。お店が軌道に乗り始めた頃、「抱月」という名前を使わせていただいているのだから、一度ご挨拶に行かねばと、雑司ヶ谷にある島村抱月のお墓を訪ね、見守ってくださいと手を合わせたそうだ。律儀。

ところがお店が順調に行き始めたと思ったら、その店に建て壊しの話が持ち上がる。結局、銀座の「抱月」は3年で閉めることになる。20代で始めた銀座の店。お客さまも増えてきて、さあこれからという時に立ち退きを迫られる。さぞ悔しかったことだろう。お店への愛着もどれほどだっただろう。

と話していたら「ジオラマ、見ます?」と松島さん。精巧につくられた二十分の一のお店の模型。小さなカウンター、ソファの席、ボトルの棚、見事に再現されている。昭和の映画のセットのようだった。こういう模型を見て愉しむのは男だけかと思っていたら、案外松島さんも男っぽいんですね、というと「私はお店という空間をつくったんだと思っているんです。だから、写真じゃなくて、その場所の記憶や記録を三次元で残しておきたかったんです」今なら3Dプリンターで自分やお客さんのフィギュアも置きたくなってしまう。「トイレも作っておけば良かったと後悔してるんです。トイレもかわいかったんですよー」

銀座の「抱月」を閉めたあと、傷心の日々。とにかく一日でも早く日本を脱出したかった。そして「世界一周ひとり旅」へと旅立つ。ハワイからロス、アリゾナ、ラスベガス、グランドキャニオン、シカゴからAmtrakでニューヨーク。大西洋を渡りリスボン、マドリード、フィレンツェ、ウイーン、プラハ、ベルリン、フランクフルト、ブリュッセル。リールから船でドーバー海峡を渡りロンドン、ストックホルム、サンクトペテルブルク、モスクワ。北京、ソウル、そして日本。ふぅ。ほぼ2ヶ月のひとり旅。アメリカ横断鉄道やユーレイルを乗り倒した。まるで「ひとり世界の車窓から」だ。

「鉄道好きなんですか?」と聞くと「ええ、テッちゃんですよ」と軽く返ってきた。「見ます?」と差しだされた雑誌は「旅と鉄道」その表紙に駅にたたずむ女性。よく見ると「あ、似てる?」似てるんじゃなくて、その表紙の旅人は松島さん本人だった。「特集の『津軽半島一周紀行』のページ、私が書いたんです」と。14ページの特集記事。これ全部松島さんが?「本を読むのも好きですが、書くことも好きになってきました」と。

『傷は癒えたけど出会いはなかった』という世界一周の旅から戻り、今度は自分のペースでできる場所でお店を再開しようと場所を探し始める。偶然出会った神楽坂。この家の大家さんは若いころ芸妓さんで、ここに住んでいらしたそうだ。その大家さんは「いずれはここでBARをやりたい」と思っていたらしい。

大家さんはもう自分でお店はできない年齢になられたというので、この場所を貸す事にした。そんなとき、BARにしたいと思って探していた松島さんが現れた。運命的な出会いだったのだろう。どこの町で店を構えるか。自分のペースでできる店を出したかった、松島さんは考えた。「神楽坂を選んだのは、花街がいいと思ったから。神楽坂はほら、昔から女が商売をしてきた街でしょ」と。なるほど。
松島さんはこのBARが、あるいは松島さん本人が、人と人との化学反応の接点になれると面白いなと思っている。「いろんな職業のお客さんがいて、あの人とこの人が出会ったら、何か新しい、面白い化学反応が起きるかもしれない。そのキッカケになれたら楽しいですね」いちおう会員制のBARだから「クリネタを見て来ました」だけではムズカシイかもしれません。なんとか伝手を探して行ってみましょう。

追記:「本が好きで、書くことが好き」と聞いた長友編集長は即座に「クリネタになんか書いてもろたらえーやん」と。で、書評「きなみえりの読書感想文」というコーナーができました。

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抱月

〒162−0832 東京都新宿区岩戸町19番地

営業時間19:30〜24:00(23:30ラストオーダー)

土日祭日休み
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No.28 (2014年冬号)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで
【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋
長友さんと一緒に【稀代】⑤抱月

六本木なのに、なぜ青山


青山ブックセンターという本屋さんは、実は、六本木の駅のとこにあるあの店が本店だと、思い込んでいました。なんで六本木にあるのに、青山っていうんだろうな?とずっと不思議に思っていました。海外の書籍や広告デザイン関係の本が充実していたので、てっきりここが本店だと信じていたのです。

ボクの本が発売されて、「青山ブックセンター本店さま」と書いたPOPを納品して、店頭に見に行ったら、本は積んでくれていたのですが、POPは使ってくれていない。「なんだよ、もう!」と思ったのですが、そりゃそうですよね。そこは青山ブックセンター六本木店なのですから。

で、表参道の国連大学の裏にあるのが「本店」だと知り、行ってみました。ありました!手書きPOP。先日トークショーもやらせていただいたので、もう一枚POPを差し上げました。(コピー違いで、使い分けていただけるように)そしたら2カ所で使っていただいているようです。ありがとうございます。

青山ブックセンターのポスターのコピー、いいですよね。書店の広い売り場を歩きながら、セレンディピティという偶然の出会いがある。それは検索ではたどり着けない。やっぱり自分の足で歩かないとダメなんですね。青山に行く際は、ぜひ青山ブックセンター『本店』をよろしくお願いいたします。

長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋


そうやねん、そうやねんw と長友編集長

クリネタ27号 Photo by 木内和美

長友さんを偲んで。クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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Salon書齋
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「稀代」というこのコーナーを受け持って4回目、どんどんケッタイな店になってきた気がする。場所は神田神保町、古本屋街。地下鉄神保町駅A7出口から徒歩1分。小宮山書店ビル5階。本屋の中にBARがある?古書だけでなく写真や美術品も扱っている、まるで博物館のような、宝探しをしたくなるような、そんなビルの5階にそのBARはある。

小宮山書店ビルは大きなビルなのですぐ見つかった。角を曲がると「ぶらじる」と書いたコーヒー店の暖簾が見える。その脇に緑色のドアのエレベーターはあるのだが、どこにも「Salon書齋」の看板はない・・・。ここのはずなんだけどなぁ・・・。書店のほうが開いていたのでお店で聞いてみることにする。「このビルにBARがあると伺って来たのですが・・・」というと「その階段を上って中2階のエレベーターから5階へどうぞ」と。なんだか秘密の場所に案内される感じだ。(書店の営業時間なら中2階のエレベーターで。書店が閉まる18時半以降は、ビルの横にあった、さっきの「緑のドアのエレベーター」で5階へ。BARの営業時間である17時からは小さな看板がエレベーター外の壁にも掛かります)

父の書斎
5階に降りると小さな表札のような「Salon書齋」の文字。中に入ると重厚なカウンターとスツール。お父さんの書斎にあるようなテーブルと椅子の席。誰かの書斎に案内されたような気分に浸っているといきなり三島由紀夫に睨まれた。写真家細江英公が撮った薔薇刑の三島の顔がドカンと飾ってある。ぐるっと見渡すと「鹿鳴館 三島由紀夫」という直筆、赤で修正の入った原稿用紙、毛筆の手紙などが額装されている。直筆と原稿用紙は三島由紀夫、手紙は夏目漱石が津田青楓に宛てたもの。達筆すぎて内容まで読めなかった。

「Salon書齋」のママ、代表取締役の小宮山笑子(エミコ)さん。笑子さんがまだこどもだった頃、ご自宅のお父様の書斎に各界のお友だちがよく遊びにいらしていたそうで、その場所をここにつくろう、となったそうだ。ロンドンと日本をミックスしたような雰囲気の書斎を再現したお店。そのお父様も毎日お店にいらしてワインを1本あけて帰られる、一番の常連客だ。神保町の古書店という「職業柄」なのか、お客様には作家、漫画家、映画関係、写真家、ミュージシャンもいらっしゃるらしい。考えてみれば「書店」というのはいろんな「作家」の作品が並んでいるわけで、その「作品」をファンが探し求めて出会う場所だ。作家とファンの接点が書店だとすると、この「Salon書齋」もまたそういう接点になっているというのはとても自然なことかもしれない。まぁ、BARという場所はオトナ同士の接点でもあるんだけれど、ここでは博学の先輩たちと若い人たちが出会い、店内のいろんな写真や文書について話してくれたり、そんな交流も生まれる場所だという。有名な人もそうじゃない人も平等なお客様で、エライ人ほどエラそうにしない、有名人を見かけても騒がない、そういうオトナが出会う場所だ。

横道のチラシ
バーカウンターにはマネージャーの森沢敦子(アッちゃん)さん。アッちゃんは学生の頃から神保町界隈が好きでよく古書店を回っていた。シナリオライターを目指していたアッちゃんは、いろんな事情があって挫折。演劇の仕事はあきらめてしまったが、どうせ仕事をするなら好きな神保町がいいなぁと歩いていたら、求人の張り紙を見つけて、この「書齋」で働くようになった。その「求人チラシ」の貼り方が面白い。この「Salon書齋」では何人かアルバイトの女性を雇っているそうだが、その「求人チラシ」は必ずこのビルの「横道に入った場所」に貼ることにしているそうだ。小宮山ビルの表通りではなく横の壁。「このお店には神保町によく来る人に来て欲しいんです。小宮山書店になにか好きなものがあって、それをよく見に来てくれる学生さん。そんな人に求人チラシに気づいてほしいから」このソーシャルメディア、インターネットの時代は便利かもしれないが、ほんとに「こんな人に来て欲しい」というとき、表通りではなく、あえて目立たないところに貼る、というユニークなターゲティング。なんでもかんでも拡散すればいいわけじゃないもんね。アッちゃんもビルの横に貼られたチラシに気づいて来たそうだ。その日のアルバイトはIT担当の女の子。たまたま長友編集長がLINE のiPhoneアプリを間違えて削除してしまい、困っていたところ、その復旧を手伝ってくれた。実は彼女は写真家志望で、小宮山書店によく通っていて、横の壁の張り紙に気づいたひとりだった。この「気づくかどうか」が大事なんじゃないだろうか。

パワースポット神保町
この神保町という街には不思議な力があって、そのパワーに引き寄せられた人がこのBARに集まっているようにも思えてくる。そんな話に感心していたら、「大ママはもうご挨拶しましたっけ?ちょっと待ってくださいね」とアッチャンが電話をかける。「いま、降りてきます。この上にお住まいなんで」大ママ、降臨。緊張しながらお話を伺う。会長、小宮山君子さん。君子さんも神保町生まれ。「すぐそこの錦華小学校でしたのよ」そしてこの神保町でご主人と出会い、この神保町で結ばれ、この神保町に住むことになる。この「Salon書齋」は、神保町という街のパワーに集められた人たちでできているようだ。パワースポットだったりして。

初めてのお客さんへ
いろいろ取材して面白いお話もたくさん聞けたし、お店の裏メニューなども教えていただいたのだが、残念ながらここに書き記すことはできない。いろんな固有名詞もでてくるし。そこは、お店で聞いてください。「クリネタを見ました」といって来店してもらえば、最初は特別サービスがあるかもしれない。もしくは、初めは「クリネタ」で見たとは言わず、こんな「セリフ」をしゃべるのはどうだろう。

【例えば、その1】『入口にある「書齋」という字は、会津八一さんの字ですね。だけど、おかしいなぁ。「書」という文字と「齋」という文字は一連の流れで書いていないように見えるなぁ』→「よくご存知ですね!先代の出身地である新潟出身の歌人、美術史家、書家である会津八一氏の字が好きで「書」と「齋」という文字を組み合わせたそうなんです」となる。

【例えば、その2】『あ、これは三島由紀夫の原稿ですね。これはもしかしたら、女性初の大臣になった中山マサさんについて三島由紀夫が書いたものですね』→「よくご存知ですね!」となる。

【例えば、その3】『この手紙の字は夏目漱石っぽいですね。ああ、画家の津田青楓(つだせいふう)に宛てた手紙ですね。最後の2行に名前が書いてありますね』→「よくご存知ですね!」となる。

みたいな会話から始めるのもいいかもしれない。しかしまあ、そんな面倒なことをせず「クリネタで見て来ました」でいいんですけどね。

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Salon書齋
〒101−0051東京都千代田区神田神保町1−7小宮山書店ビル5F
03−3259−1234
営業時間17:00〜24:00(23:10ラストオーダー)
土日祭日休
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No.27 (2014年秋号)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで
【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋

長友さんを偲んで【稀代】③ne & de

オリーブオイルが肌にいい、と聞くやいなや顔に塗る長友編集長
クリネタ26号 Photo by 木内和美

長友さんを偲んで。クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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ne&de
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「稀代」というクリネタのこのコーナーは、この店のためにあるようなものだと思った。それほど「ケッタイ」なお店だった。住所と地図を見て「ああ、あの辺ね」すぐわかるわと思って歩いて来た。青山3丁目からキラー通りを国立競技場方向へ。神宮前3丁目の交差点過ぎたすぐ左手。しかし通り過ぎてしまった。あれ?おかしいな。Uターンしてもう一度来た道を戻ろうとしたら、向こうからトコトコやってくる長友編集長が見えた。ああヨカッタ。「このへんですよね?」「うん、たしか、ここよ」とプランターが置かれた黒い手すりの階段をすこし上がった鉄の扉とガラス張りのお店がそこだった。

先に到着していた柴田副編集長が白い木のカウンターで涼しげなグラスを傾けている。「香るハイボールよ」白州ハイボールにミントの葉を浮かべて香るハイボール。「じゃあ、ボクも香るハイボールを」するとお店の女性が店の外へ。さっきの階段のプランターのミントを摘みにいったのだった。青山育ちのミント。

何も知らずに初めて来た人は、たぶんキョトンとするだろう。ボクがそうだったから。カウンターの上にはアリゾナ産ターコイズを使ったアクセサリーが飾られながら商品としてディスプレイされている。ネイティブアメリカンの友だちからお守りとしてターコイズの石をもらったオーナーが、その美しさに魅せられて、このようなアクセサリーをつくるようになったという。カウンターの中はいわゆるBARのようにずらりとお酒のボトルがならんでいるわけではなく、工芸用の工具や革のひもがずらっと並んでいるコーナーがある。細長い店内の奥はなにやら薄暗く怪しい椅子とテーブル。オーナーであり空間デザイナーの堀育代(ほりやすよ)さんがつくる空間。「時の美しさ」をテーマに落ち着きのある優しい空間にしたかったそうだ。ああ、それであの大きなドアが飾ってあったのか。100年以上前にパリで使われていたものだそうだ。そこにも「空間」と「時間」が演出されている。

「このお店は4つのパートでできているんです」と堀さん。「まずお店に入ると、ここがショップ、こっちが工房。で、カウンター席がBARで、奥がデザイン事務所なんです」決して広くはないスペースだけどうまく分類されていて無駄がない。なんだろう、この居心地のいいカンジ。ショップで閉店後スタッフだけで飲み始めてしまったようなあのカンジ。友達の事務所に打合せに行って、そのまま飲み始めてしまうようなあのカンジ。お酒を飲みながら手作りのアクセサリーを見ながら、堀さんの話を聞きながら、「これプレゼントにいいかも」と思いながら飲める店。「人に贈るものを何にしようか悩む時間を、ここで楽しんでいただければ」

堀さんがイタリアに行ったとき、ベネチアで『バーカロ』という食前酒だけを扱っているBARに出会ったそうだ。夕方4時くらいにオープンして食前酒を楽しんでお店は8時には閉めてしまう。それからふつうに食事に行く。そんな文化に出会ったそうだ。「こんなお店あったらいいな」そう思って始めたのがこのne&de(ネーアンディー)だ。ne&deとはnearest(一番近い人)&dearest(一番親しい人)つまり、最愛なる人という意味らしい。

カウンターに気になるメニューがあった。『TODAYSオイルアペタイザー ○燻くんプロシュート500円有機ブタのプロシュート冷燻オリーブオイルがけ(オレイン酸たっぷり)』この手書きのメニューを見た人が10人中8、9人は聞くであろうことを聞いてみた。「冷燻オリーブオイルって何ですか?」すると鮮やかなターコイズブルーのボトルを見せてくれて、「これ、燻製の香り付けがしてあるオリーブオイルなんです。これをピザにかけてもいいし、野菜にかけてもいいし、冷や奴にかけてもイケルんですよ」と。「ふむふむふむ」と全員うなずく。さながら美人教師の話を教室の最前列で聞くオジサンたちのようだ。先生はオリーブオイルのことをいろいろ教えてくれた。

例えばこれはフルムーンという名のオリーブオイル。満月の日に収穫したオリーブだけで抽出したスペイン産のオイル。満月の日は、含まれるオレイン酸が多いのだそうだ。オジサンたちはただただ「へー」とか「ほー」と言うしかなかった。「オリーブオイルというのは畑と瓶詰めする場所が近い方がいいんです」畑で実を摘んで、そこで搾って、そこでボトルに詰めるのが理想なんだそうだ。とにかく空気に触れさせないことが大切だと。そこで二つのボトルを見せてくれた。同じボトルのカタチだけどラベルがちがう。何が違うの?と聞くと「こっちが収穫後4時間でボトリングされたオリーブオイル」「ほほーっ」「そしてこっちが、収穫後すぐに搾って10分でボトリングされたもの」「えええーーっ10分?」そう言われたら、テイスティングしないわけにはいかないでしょう。うまいことできてます。

てなことを勉強していると、ほうれん草を練り込んだ生地で焼かれたピザができあがってきた。生ハムに燻製の香り付けしたオリーブオイルがかかっている。「さながらここはオイルBARですね」と山岡特派員。すると長友編集長が「なに?老いるBAR?」「オイルBARですよ」「老いるはイカンなぁ、老いるは」オイルには敏感な長友編集長であった。

2杯目は白州オンザロック(青山ミント入り)を飲みながら、数種類のオリーブオイルをテイスティング。お酒を飲みながらオイルを飲む。冷燻オリーブオイル、フルムーン、4時間詰め、10分詰め。銀色の小さな計量スプーンで味見。たしかに違う。それぞれ違う。柴田副編集長は「やっぱり燻製オイルがいいな。これいくら?」お買い上げありがとうございます。

このCAFÉ&BARのもうひとつの自慢がこの2年熟成コーヒー。コーヒーを入れてくれるのは並木亜妃さん。「コーヒーを入れるとき滴るしずくが赤くなるんです」「はぁ?赤くなる?」カウンターの男たちが一斉に身を乗り出して覗き込む。ふつうにただコーヒーのしずくがおちているだけじゃん、と思ったそのとき「あ、見えた!」確かに黒い液体の中に赤い、イクラのような粒が一瞬見えた。取材カメラに写ったかどうかは心配だが、たしかに赤い粒が落ちるのが見えた。「手品じゃないですよ。ちゃんと入れ方をレクチャーされたんですから」

「お豆腐&オリーブオイルも試してみます?」と堀さんが用意してくれた木綿豆腐に「トリュフ塩」をふって「冷燻オリーブオイル」をかけて。これはイケル。茶の湯をいただくような器でコーヒーをいただきながら、これまた結構なお手前で。「コーヒーと冷や奴」ケッタイな取り合わせ。なんだか不思議に愛着の湧く語感。「コーヒーと冷や奴」いっそ店の名前にしたらどうだろう、という長友さんの提案でひとしきり盛り上がったが、白州ハイボールと冷や奴のほうがおいしいとボクは思う。

初めてひとりでふらっと入るには敷居と階段が高いのかもしれないが、「クリネタで見たんですけど」といえば、ニッコリ迎えてくれるお店がまた一軒できました。

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渋谷区神宮前2-6-6 秀和外苑レジデンス1F(ne&de 青山ショップ)

■ne&de 青山ショップ
 OPEN:火曜日~土曜日
※(月曜日・日曜日・祝日はお休みになります)
TIME:11:30~20:00
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No.26 (2014年06月27日発売)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋

長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA

クリネタ25号 Photo by 木内和美

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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BAR JADA
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地下一階で止まったエレベーターのドアが開くと、そこはBARだった。それはもういきなりBARだった。店はドアを開けて入るモノ、という決まりがあるわけじゃないけれど、ちょっとビックリした。南青山6丁目、骨董通りから根津美術館へ抜ける道を曲がってすぐのビルの地下。BAR JADA(ジャダ)はずっとそこにあった。ずっとあった、というのは、この道は確かに通ったことはあるのだが、このBARには全然気づかなかったから。そしてオープンが1989年というから今年でもう25年になる。ウイスキーでいうとかなりのものだ。

気づかれにくい場所、控えめな看板。オーナーバーテンダーの小澤さんは「そうですね、一見さんはめったにお見えにならないですね」という。「一度お越しになったお客さまのお連れの方がまた別の人といらしたり、その繰り返しでだんだんいろんな方に知っていただけるようになりました」と。一度気に入っていただいたお客さんが別のお客さんを誘い、そのお客さんがまた別のお客さんを連れてくる。まるで、ソーシャルメディアの「いいね!」が拡散して常連さんが増えて行くイマのビジネスモデルだ。しかし、歯が生え替わるようにお店が無くなっては建つ表参道・南青山界隈で、25年もたったひとりでBARをやっている。それはどう見てもすごいことだと思う。その秘密はなんだろう?と探りたくなった。

心地いい緊張感

「く」の字に折れたカウンターに7席だけの小さなBAR。「エレベーターが開いて誰か人の気配は感じるんですが、そのまま黙って上に上がっていくこともよくあるんです。初めて入るBARはお客さまも緊張されるでしょうが、私の方も緊張するんですよ。25年やっていても、それは全然変わらないんです」と小澤さん。たしかにそうかもしれない。狭い店。しかも地下。男気ある風貌の小澤さんだが、どんな人が降りてくるかドアが開くまでわからない。すると一緒に取材をしていた、飲むほうのベテラン長友編集長が『その心地いい緊張感がええのよ。緊張感を愉しむためにBARのカウンターがあるのよ。吉行淳之介も言うてたで。BARの中と外があんまり仲良くなりすぎるのはよくないって』なるほど。さすがBARのベテランである。

お客同士の会話にもある種の緊張感はある。Aというひとりの客とBというバーテンダー。そこにCという別の客。Aとバーテンダー、Cとバーテンダーは知った仲だが、AとCは初対面の客同士だとする。ひとりで飲んでいると、他の客とバーテンダーの会話が耳に入る。なんとなく話が混ざってきて、AとBとCの3人で話すようになる。しかし、お客同士のお互いの深いところまで入り込まないほうがいい。調子にのりすぎないほうがいい。そういう、人との距離感みたいなものをBARで学ぶことがよくあった。

心の中の師匠

「25歳でこの店を始めて、10年くらい経ってからですかねぇ。自分の職業はバーテンダーだと胸を張って言えるようになったのは」やっぱり、10年くらいかかるのか。バーテンダーの小澤さんにとって「師匠」みたいな人はいらっしゃるんですか?と聞いてみた。すると、「心の中にはいます」と即答。ほほう、どんな人なんだろう?「渋谷のJIGGER BARで働いていたとき、教えてくれた先輩がいらっしゃった。その店では接客のマニュアルなどは置かず、基本任せてくれたのですが、そこでの失敗や経験がいまの自分のベースになっています。その方が心の師匠ですかね」バーテンダーコンテストで優勝するとか有名な店で何年働くとか、そういうことではなく、自分の中に「心の師匠」を持ち、自分の仕事に責任を持つ、プライドを持つ。みんなそうして一人前になるんだなぁ。どんな職業も同じかもしれない。

業界用語

「宇多田ヒカルさんが婚約した時スポーツ紙が、お相手の職業を『バーテンダー』と紹介していたんです。うれしくなりましてね。スポーツ紙がちゃんと『バーテンダー』と書いてくれる時代になったかと。昔は『バーテン』とか言われてましたからね」職業名はちゃんとした名前で呼ぶべきですね、とかなんとか話していたら『バーマンとも呼ぶんですよ』と、常連のお客さんが会話に加わってきた。「こちらのTさんは、お仕事でパリやニューヨークのBARをよく回られているんです」と小澤さん。常連のTさんがこんな話をしてくれた。「パリの老舗BARで聞いてみたんですがね。最高のバーマンってなんでしょう?って。そしたらその店のオーナーは、『ひとつのお店で長くバーマンをやっていて、たくさんのお客を持つことだ』と言うんです」あらま、小澤さんのことじゃないですか、最高のバーマン。「お客はバーマンにつくんですよね」とTさん。「客はバーマンにつく」またひとつ、業界用語を覚えた。

シュウマイの冷めない距離

山崎ハイボールをお替りしながら取材を続けていて、お腹がすいてきた。「中華でも、とろか」長友編集長がBARという場所に似つかわしくない発言をした。雀荘に出前、というのはよく聞く話だが、BARに出前、はあまり聞いたことがない。これも南青山で長くお店を構えるもの同士の友情のようなものなのか、すぐ近所にあるチャイニーズレストランDからの出前を取ってくれるという。前菜盛り合わせ、春巻き、シュウマイ、腸詰などなど。助かります。腹ペコでBARに来てしまうことって、けっこうあるんですよね。そんなとき本格中華のお皿を届けてもらえるという老舗BARならではのサービス。まさに「中華が冷めない距離」。ただし、この離れ業をオーダーできるのは、何回か通ってから、なのかもしれない。「一流の店は一流の店から出前をとるのよ」これは長友編集長のお言葉です。

南青山で25年。たったひとりでこのBARをやっているバーマン、小澤さん。怖がらずに一見さんとして行ってみてもいいと思います。「クリネタで見たんですが」と言えばもう一見さんではありませんから。

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BAR JADA

東京都港区南青山6-2-7グレグラン骨董通りビルB1F

03-3797-0561

年中無休18:00~26:00(LO25:30)
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No.25 (2014年03月27日発売)
 クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA
長友さんを偲んで【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋

 

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー

クリネタ24号 Photo by 木内和美

長友さんを偲んで。クリネタらしいBARを紹介する、稀代(ケッタイ)の記事をご紹介します。長友さんと一緒に取材に行ってまとめた記事です。

稀代(ケッタイ)とは、なんだ?
クリネタおススメの、いい店、おもろい店

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モンド・バー
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どうして駅に本格BARをつくったんですか?という質問をしたら「どうして駅に本格BARがなかったんでしょう?」と逆に質問された。外国のターミナル駅や空港には本格的なBARがある。考えてみれば駅にこそいいBARはあるべきなのかもしれない。品川駅港南口アトレ4F。銀座の老舗、モンドバーの直営店。

帰宅を急ぐビジネスパーソンたちを眼下にながめながら席に着く。入口左手にマホガニーのカウンター席が8席。付きあたりを右に折れると細長いスペースに向かい合わせのテーブル席。ちょうどここは列車の中のようだ。テーブル席の壁には小ぶりな網棚が。窓からの眺めが走る列車からの眺めだったらいいのに、と勝手に思う。

秘密のハイボール

このBARでは必ず注文して欲しいものがある。それは『角ハイボール』だ。冷凍庫から、グラスと一緒に冷やされた角瓶のボトル。カウンターの上に冷やしたグラスを置く。そこへ60mlの角を注ぐ。けっこう男っぽく注ぐ。そこへ冷えたソーダ水の瓶1本を勢いよく注ぎ切る。そんなに勢いよく注いで大丈夫?こぼれない?という心配は無用だった。底のほうがやや広くなった独特なカタチのグラスにぴったり収まる分量で止まった。そこにレモンピールを振りかける。魔法をかけるような手つき。氷を使わない角ハイボール。ウイスキーとソーダ水とグラス、全部を冷やしているので氷は要らない。氷が溶けて味が薄まることもない。

グラスの口のギリギリまで注がれて、こぼさないように静か~に運ばれて「どうぞ」と出された角ハイボール。口元に運ぶとほのかにレモンの香りがする。一口飲むと明らかに家で飲むハイボールとは別物だと降参する。何だろう、このまろやかさ。
グラスをカウンターに置いて、何気なく指を鼻に近づけると、ほんのりレモンの香りがした。マスターバーテンダーの小林さんが種明かしをしてくれた。「レモンピールはハイボールの液面と、グラスの側面にもふるんです。グラスを持つ指先まで香るでしょ」

あんなに勢いよくソーダ水入れて溢れちゃったりしないんですか?という幼稚な質問をしてみた。ソーダ水を勢いよく注ぐのには理由があるという。「勢いよく注ぐことで炭酸をやわらかくするんです」と。なるほど。ただショーのように見せるためではなかったのか。

専門用語の誘惑

「ちなみに・・・」とチーフバーテンダーの小林さんは話し始めた。「山崎ハイボールはまた少し違う作り方をします」冷やしたグラスに氷を入れて静かにソーダ水を注ぐ。で、レモンピールを絞るのかと思いきや「山崎ハイボールはオレンジピールを絞るんです」そしてグラス。「山崎ハイボールには薄いグラス使います。そのほうが『運びがいい』から」ん!運びがいい?耳新しい言葉を聞いた。カウンターに座っていた長友編集長と私は思わず顔を見合わせ「こりゃメモ!メモ!」と目で合図を送り合った。こういう「専門用語」を聞くとうれしくなる。いつか使ってみよう。「こういう薄いグラスで飲むのもいいよね」「うん、運びがいいよね」てなカンジで。

お酒の種類によってグラスの重さも重要な要素なんだそうだ。素人の私は「ぜんぶ薄いグラスにして運びがいいようにしてどんどんお代わりしてもらえばいいのに」と思ってしまうのだが、そのお酒によってゆっくり飲んでほしいものもあれば、気持ちよくクイクイいったほうがおいしいものもある。グラスの感触によっても味のイメージが変わる。角ハイボールはどっしりした重いイメージだからあのグラス。山崎ハイボールは繊細で軽やかに運びがいいこのグラス。あの底が広くなった重いグラスを山崎で試してみたけれど、やはり合わなかったそうだ。やっぱりやってみたんだ。そこまで考えていろいろ選んでいらっしゃるわけですな。

このハイボール、実は元々バーテンダーの『まかない酒』だったそうで「メニューにも乗せてないんですよ」ですって。「え!そうなんですか!」てっきり名物メニューだと思っていた。お客さんから「何か一杯飲みなよ」と言われたときに作って飲んでいたのがハイボールだった。それをお客さんが「それ何?」ということから裏メニューとして広まっていったんだという。へぇ~。角ハイボールも山崎ハイボールもメニューには載っていない。だから「クリネタで見たんだけど」と言っていただくといいですね。

常連さんのBLT

調子にのって角ハイボールと山崎ハイボールを飲んでいて、お腹が空いていたことを思い出した。お薦めのポテトサラダと自家製ハム(このハムは黒豚のももを一本仕込む、モンドバー自慢の一品)ほたてのガーリックソテー、BLTサンドイッチを注文する。BLTサンドイッチで長友編集長が思い出した話がある。

品川駅に新幹線が止まるようになって、常連さんが出張なんかで品川を通る時、「何号車まで」と電話をしたらホームまで、いや席までお弁当として届けてくれたこともあったという。そこでお金のやりとりはできないので、そこはツケで。なんとまあ、わがままな常連さん。と思うと同時に、行きつけのBARとそういう『関係』になれるお付き合いを、とてもうらやましくも思った。

スキンヘッドの心

同じカメラで同じ景色を撮影してもプロと素人の写真が違うように、同じウイスキーとソーダ水もバーテンダーによってハイボールの味が変わってくる。チーフバーテンダーの小林さんは、お客様には「いろんなBARで飲んでみてください」と言うことにしているそうだ。いろんなBARに行ったけど、やっぱりここのハイボールがいい、と言われるのが一番うれしいから。「結局、自分で一番うまいと思うものをお出しするしかないですし、自分がいいと思うその強さしか伝わらないんじゃないかと思うんですよ」カッコイイこと言うなぁ。

ところで小林さん、思い切って聞いちゃいますけど、スキンヘッド歴はもう長いんですか?すると、眉までキレイに揃えたスキンヘッドのチーフバーテンダーは、「ある時、お酒がうまくなるビジュアルって何だろうと考えたんです。うまくならずとも、お酒がまずくならない自分の姿はなんだろうと考えた。清潔感か。色気か。透明感か。で、スキンヘッドに行きつきました」なんというプロフェッショナル。

角瓶もソーダ水も近所の酒屋に売っている。絶対自分でも作ってみようと思う。たぶん再現はできないんだろうけど。

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モンドバー 品川店

東京都港区港南2-18-1アトレ品川4F

03-6717-0923

年中無休11:00~24:00
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No.24 (2013年12月27日発売)
クリネタ
http://www.crineta.jp

長友さんを偲んで【稀代】①モンド・バー
長友さんを偲んで【稀代】②BAR JADA

長友さんを偲んで【稀代】③ne & de
長友さんを偲んで【稀代】④ Salon書齋